大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和23年(行)60号 判決

原告 明治物産株式会社

被告 芝税務署長

被告 国

右代表者 法務総裁

一、主  文

被告芝税務署長が原告に対し、昭和二十年八月三十一日附でなした清算所得金額及び清算純益金額に関する決定を取り消す。

被告国は原告に対し金八十二万六千六百八十一円六十七銭及び内金七十四万三千百六円十五銭に対する昭和二十三年七月七日より昭和二十五年三月三十一日まで百円につき一日十銭、同年四月一日より右完済に至るまで百円につき一日四銭の各割合による金員(十円未満の端数を生じた場合はこれを切り捨てる)を支払うべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決及び金員の支払を求める部分について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告は昭和十六年八月一日の合併契約に基き同年十一月二十六日訴外三光商船株式会社(以下三光商船と略称する)を吸収合併し、同年十二月六日その登記手続を了したが、被告芝税務署長は昭和二十年八月三十一日右合併に基く清算所得金額及び清算純益金額をそれぞれ金三百八十一万八百一円と決定し、右決定書は昭和二十年十二月十日原告に送達され、同時に同被告は同年九月二十日附で原告に対し右各金額に基く法人税及び営業税合計金七十四万三千百六円十五銭を支払うべき旨を告知してきたので、原告は昭和二十一年二月二十七日右税金の内金二十万円を、同年四月二十日残額金五十四万三千百六円十五銭を被告国に納付した。

しかしながら、原告は昭和十六年六月二十日三光商船の全株式九千九百六十株(一株金五十円払込済)を代金合計四百四十八万二千円で買収し、合併当時その全株式を所有していた関係上、合併の際には株式の割当及び合併交付金の授受はなされず、従つて右合併に因る清算所得も清算純益もあり得ないのであるから、前記被告芝税務署長の決定は違法であり、取消を免れない。よつて、原告は右決定書送達の日から二十日の法定期間内に政府に対して不服の事由を具し審査の請求をしたが、いまだにこれに対する裁決がなく、又被告国は右審査の請求により当然前記納付金を原告から受領するいわれのないことを知つており、又は少くとも知りうべかりしものであり、且つ右審査の請求により当然その時にあらかじめ該納付金の還付の請求がなされたものと見るべきであるから、被告芝税務署長に対し前記決定の取消を求めると共に、被告国に対し前記納付金七十四万三千百六円十五銭及び内金二十万円に対する納付の日の翌日である昭和二十一年二月二十八日より残額金五十四万三千百六円十六銭に対する納付の日の翌日である昭和二十一年四月二十一日より、いずれも昭和二十三年七月六日まで民法所定の年五分の割合による各利息合計金八万三千五百七十五円五十二銭、並びに右納付金全額に対する同月七日より昭和二十五年三月三十一日まで国税徴収法(昭和二十三年法律第百七号により改正)所定の百円につき一日金十銭、昭和二十五年四月一日より右完済に至るまで同法(同年法律第六十九号により改正)所定の百円につき一日金四銭の各割合による還付加算金(十円未満の端数が生じた場合はこれを切捨てる)の支払を求めるため本訴に及ぶ。」と述べ、被告らの主張に対し、「被告ら主張事実中原告が税金逋脱の目的を有していたことは否認する。その余の事実は全部認める。被告ら主張の同族会社の行為計算否認の規定は本来税金逋脱の目的がなかつたならば常識ある経済人としてしないような非合理的な行為をした場合に適用されるものであり、税金逋脱の目的がなくても常識ある経済人が通常行うような行為に対しては適用されないものと解すべきであるが、吸収合併前に被合併会社の全株式を合併会社が買収することは、被合併会社の株主が株式の買収には応ずるが合併には応じない場合、又は、合併会社が被合併会社の株主を自己の株主に迎えることを欲せず、単に被合併会社の事業及び固定資産等を取得しようとする場合には最も合目的な行為であり、常識ある経済人が税金逋脱の目的がなくてもかゝる行為をなすべきことは明らかであるから、原告の前記株式の買収ないし合併は否認の対象たり得ないものである。仮りにそうでないとしても、これを否認するためには、かゝる行為が税金逋脱の目的でなされることが必要であるが、原告はかゝる目的をもつて株式の買収をなしたものではないから、これを否認するというのは失当である。仮りに原告の株式買収ないし合併が否認の対象たり得、しかも税金逋脱の目的をもつてなされたとしても、株式買受代金をもつて合併交付金と見なすことは許されず、ただ株式を買収せず通常の方法により合併したならば、合併会社から被合併会社の株主に割当て又は交付されるであろうと考えられる株式の払込済金額及び合併交付金の総計を基準として清算所得等の算定をなしうるに止まるものであり、原告が三光商船と合併契約をしたのは昭和十六年八月一日であつて、株式の買収をしなければ合併を同年六月二十日前になしたであろうと認むべき根拠は少しもないのであるから、右合併による清算所得等の算定は同年八月一日当時合併により原告から三光商船の株主に割当て又は交付すべき株式の払込済金額と合併交付金との総計を基準とすべきものであるが、当時船価の下落ははなはだしく、右株式買収当時に比し、合併契約のなされた昭和十六年八月一日当時は三光商船の資産の価格は著しく下落していたから、原告が株式の買収をなさず、通常の合併をしていたとすれば、当時の原告の資産状態と三光商船の資産状態との比較によつて決定さるべき、三光商船の株主に割当て又は交付される株式の払込済金額と合併交付金との総計は、前記株式買受代金よりはるかに低額であるべきはずであり、これを基準として清算所得等の算定がなさるべきであるから、株式買受代金を合併交付金と見なしてなした被告芝税務署長の前記決定は失当である。」と述べた。(立証省略)

被告ら各指定代理人はいずれも「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張事実は全部認めるが、被告芝税務署長がなした原告主張の決定は少しも違法ではない。すなわち、原告が三光商船の全株式を買収したのは、合併契約のわずか四十日前であり、原告も三光商船も共に訴外亡山田豊市の同族会社であつたのであつて、且つ原告は昭和十六年八月十八日の臨時株主総会において資本金二百万円を三百五十万円に増資する旨を決議し、新株三万株の内二万四千株を山田が引受け、同年十月三十一日その全額払込を了しているのであるから、原告が税金逋脱の目的で三光商船の全株式を買収したことは明白である。従つて、前記株式買収代金は経済的実質的には合併交付金に外ならず、原告の株式買収行為は昭和十五年法律第二十五号法人税法(以下旧法人税法と略称する)第二十八条に該当するから、被告芝税務署長は右株式買収行為を否認し、該株式買受代金を合併交付金と見なし、これから三光商船の払込資本金額四十九万八千円及び積立金十七万三千百九十九円を差引いて原告主張のような清算所得金額等を決定し、その主張のような法人税等を原告に賦課した次第である。」と述べた。(立証省略)

三、理  由

原告が昭和十六年六月二十日三光商船の全株式九千九百六十株(一株金五十円払込済)を代金合計四百四十八万二千円で買収し、同年八月一日の合併契約に基き同年十一月二十六日三光商船を吸収合併し、同年十二月六日その登記手続を了したこと、被告芝税務署長が昭和二十年八月三十一日右合併に基く清算所得金額及び清算純益金額をそれぞれ金三百八十一万八百一円と決定し、右決定書は昭和二十年十二月十日原告に送達され、原告がこれに対して同日から二十日以内に政府に対し不服の事由を具して審査の請求をなしたが、これに対しいまだに裁決がなされていないこと、原告が右決定に基く法人税及び営業税合計金七十四万三千百六円十五銭の内金二十万円を昭和二十一年二月二十七日に、残額を同年四月二十日に納付したこと、前記合併の際株式の割当も合併交付金の授受もなされなかつたこと、原告も三光商船も共に当時訴外亡山田豊市の同族会社であつたことは当事者間に争がない。被告らは、原告は税金逋脱の目的で三光商船の全株式を買収した上、これを吸収合併したものであつて、右行為は旧法人税法第二十八条に該当するから、被告芝税務署長は右株式買収行為を否認し、右株式買収代金を合併交付金と見なしたものである旨主張するけれども、右同族会社の行為計算否認の規定は勿論同族会社を非同族会社よりも不利益に取扱うためのものではなく、同族会社は税金逋脱の目的で非同族会社では通常なし得ないような行為計算、たとえば株主が社員に会社の資産を廉価で売却するようなことをする虞があるので、かゝる場合にその行為計算を否認して、非同族会社が通常なすであろうような行為計算に引直して課税するためのものであるが、吸収合併前に被合併会社の全株式を買収することは必ずしも同族会社にして始めてなしうるような行為、すなわち、純経済上より見て不合理な行為ではなくかゝる行為を選択する可能性は同族会社であると否とにより少しも差異のないことは明白であるから、かゝる行為は旧法人税法第二十八条の対象たり得ないものと解するが相当である。もつとも、通常の吸収合併においては、合併の際に表現されなかつた被合併会社の資産の値上りによる評価益は結局合併会社の解散その他の機会に表現されるから、これに対して課税する機会があるのに対し、被合併会社の全株式を合併会社が買収して吸収合併する場合には、株式の割当がされなければ、被合併会社の資産の値上りによる評価益は表現されないにもかゝわらず、被合併会社の株式は自然消却される結果、合併会社は合併により被合併会社の資産を取得する代りに、被合併会社の全株式の時価に相当する資産、すなわち、通常の場合においては少くとも被合併会社の資産の時価に相当する資産を失うこととなり、従つて、被合併会社の資産の値上りによる評価益に対する課税の機会を失う結果になるけれども、かゝる合併の方法は経済的に見れば被合併会社の営業全部の譲渡による解散に外ならないのであるから、合併による清算所得等に対する税金は本来被合併会社ないしその株主が負担すべき筋合のものであり、本件のような場合には三光商船の株式の買主であるその旧株主が負担すべきものであるから、かゝる場合に、株式の代金を合併交付金と見なし、被合併会社の清算所得に対する税金を合併会社に負担せしめるには、臨時租税措置法第一条の三十三(昭和十九年法律第七号により改正)のような特別の規定が必要であり、右規定の施行前の事案である本件についてはかゝる課税はなし得ないものといわなければならない。そうしてみれば、被告芝税務署長がなした前記決定は違法であり、取消を免れず、又前記事実によれば、被告国は当初より悪意の受益者であり且つ原告は前記税金納付前にあらかじめその還付の請求をなしたものと解すべきであるから、被告国は原告に対し原告が納付した金七十四万三千百六円十五銭及び内金二十万円に対する納付の日の翌日である昭和二十一年二月二十八日より、残額金五十四万三千百六円十六銭に対する納付の日の翌日である同年四月二十一日より、いずれも昭和二十三年七月六日まで民法所定の年五分の割合による各利息合計金八万三千五百七十五円五十二銭並びに右納付金全額に対する同月七日より昭和二十五年三月三十一日まで国税徴収法(昭和二十三年法律第百七号により改正)所定の百円につき一日十銭、昭和二十五年四月一日より右完済に至るまで同法(同年法律第六十九号により改正)所定の百円につき一日四銭の各割合による還付加算金(十円未満の端数が生じた場合はこれを切捨てる)の支払をなすべき義務を有することは明らかであり、これを求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、本件は仮執行の宣言を附するを相当としないからこれを附さないこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 菊池庚子三 田嶋重徳 小山俊彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!